Jiro-Project2007-10-22

この季節は鈍色の空が風と一緒になって人間の心ごと物悲しくさせる。


「なんだ、講堂の方が騒がしいようだが」
年齢には不相応な白髪の男が横について歩く男に一瞥もくれずに言った。
この絶対封建主義の男塾にあって奴隷の一号生と揶揄される者どもから鬼の二号、閻魔の三号と恐れられる上級のうち、その鬼どもさえ直視をためらう恐怖の対象がこのニ号生筆頭、赤石剛次である。


「はい、なんでも一号どもが塾長の意向で米国からの留学生どもと親善紺鎖(コンサ)と称して泥武威泥(DVD)鑑賞をしているようで」
横にいた男は、前段の赤石の問いに間断のスキもなく必要な事だけを答えた。
「フッ、塾長も物好きな・・・」
そう言いながら赤石は歩き続ける。この男の興味の対象は世間一般の男とはどうやら違うらしい。わざわざ自分が歩みを止めてまで関心を示すことはどんな些細な事であれ命をはれるようなものでないと満足は出来ない。
そして、その歩みに付いていく者どもも、この男の背に差された赤石の身の丈もあろうかという長刀の威光に従うよう列をなしている。


やがて、その列の一人の男が気付いた。ということは赤石はとうに気付いているだろう。
目の前からこの列に向かって男が歩いてくる。
このまま目の前の男が向かってくるならば、この男塾の校門をくぐる事になるだろうが決してこの男は塾生ではない。
そして、どうやら日本人でもないようだ。


「待ちな」
赤石が自らの歩みを止めて言った。なにか関心の対象を見つけたらしい。
事実、赤石の表情にはうっすらとだが嬉々としたものが感じられる。
ただ、周りの人間達はそれを寒々とした恐れを感じながら見ている。


「面白ぇもん付けてるじゃねぇか」
赤石の眼光が目の前の男の手元を捉える。

なるほど、この男はいま講堂にいる留学生の内の人間でどういうわけか一人遅れてここに到着したのだろう。拳にはいかめしいマグナムスチール製のナックルがはめられていて、いかにも米国ヤンキーのそれらしい。


「面白ぇもん付けてるじゃねぇか」
赤石が二度言った。
そして、後人の一人が気付いた。
いや、気付くべきではなかった。
赤石が視線を外さないこの男の手元で、赤石が関心の対象にしているのはどうやらこの外国人のマグナムスチール製のナックルではなかった。視線の先にあるのは男の右手首に凛と巻かれたリストバンド、『〜ボン キュッ!ボン キュッ!BOMB〜』ツアー限定ソロTシャツセット〈道重さゆみ〉付属のピンクのリストバンドだった。


「ただ男のアクセサリーにしちゃあ、ちょっと派手すぎるがな・・・」
「人はJと俺を呼ぶ」